教育

解剖学講座の教育活動をご紹介します。

教育方針

 本講座は「大講座制」によって肉眼解剖学(マクロ)と組織学(ミクロ)の区分を廃し,臨床解剖学を重視した教育を行っています。教員が学生を指導する際には,愛情を持った丁寧な対応と厳正な態度を心がけ,学生が医師となる自覚と責任感を育むことができるよう,努力しています。グループ学習を進めると共に,指導内容の個別化も行なっており,主体的,対話的な学習を促しています。さらに,現代の情報通信技術(ICT)を用いて,学習の効率化と評価の透明化を進めています。

講義・実習の風景

教育の歴史

 良き臨床医を養成するという建学の精神に基づき、臨床解剖を重視し、教育に必要な組織標本の作成や肉眼標本の作成、解剖学実習に不可欠な遺体の確保に注力する講座の基盤は設立当初より築かれた。

 1990年代後半から中野は独自に『組織学・臨床解剖学サブノート』を作成するなど、伝統的に学生の理解を助ける教材づくりに教員が積極的に取り組んできた。特に臨床科目の内容を理解できることを重視し、生物学的基礎知識から形態学全般にわたる内容を講義してきた。2002年にはこれらの講義の準備として50ページを超える解剖学総論のほか、講義ノート(約300ページ)、解剖学実習ノート(約140ページ)が作られた。

 2000年代前半には、すでに学生の自主学習のため、学内ホームページ上でCT・MRI画像やチュートリアルシステムを疑似体験できるコンテンツを公開していた。また、デジタル教材も教員および助手の卓越した知識と技術により開発され、好評を博していた。中野はこれらの教育実践について白求恩医科大学基礎医学院(中華人民共和国)、岐阜大学医学教育開発センターワークショップ、全国私立リハビリテーション学校連絡協議会などで講演を行い広く紹介した。2006年に当講座は週刊文春の『現役学生2000人が選んだ面白い、自慢の講義』にも選ばれた。医学部から選出されたのは、全国で当講座を含めて2講座のみであった。また、2015年には有村和人助手が、2019年には長谷川(杉浦)香織助手が、文部科学大臣の医学教育等関係業務功労者表彰を受賞した。

 2010年代後半からは講義や実習において、ますますICTが活用されるようになった。タブレット端末やスマートフォンによって、骨格系から神経系およびあらゆる臓器などの構造を3Dで表示できるアプリケーションを使用し、実際の人体解剖や顕微鏡なしでもある程度はさまざまな部位の観察が可能となった。アプリや動画などのデジタルコンテンツを活用しての知識獲得やシミュレーションの方法は飛躍的に発展したが、遺体を使った解剖も変わることなく重視している。臨床医となりゆく学生たちに、決して欠くことのできない生命の尊厳や、死との向き合い方を伝えるには、遺体にメスを入れる経験なくしては難しい。解剖実習では次世代の医学のために無報酬で自らの身体を提供する献体の精神に学び、医の倫理を身につけることを目的としている。知識や手技の習得に加え、豊かな人間性を備えた医師を育てる基盤となる教育として、実習を位置付けているためである。また、泌尿器科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、脳神経外科などと連携し、臨床の医師が遺体を用いて行う手術手技のトレーニングにも協力している。意欲のある学部生がこのトレーニングに同席する機会も設けており、基礎医学と臨床医学分野、講義や実習と臨床での実践を学ぶアドバンストな教育も行っている。